厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」

研究責任者より

非特異性多発性小腸潰瘍症(chronic nonspecific multiple ulcers of the small intestine)は、1960年代に本邦の岡部らと崎村が提唱した慢性・難治性の小腸潰瘍症です。本症は極めて稀と考えられてきましたが、バルーン内視鏡の普及によりその存在が注目されるとともに、クローン病との鑑別も問題となる難治性疾患でもあります。

2013年の厚生労働省科学研究費補助金「腸管希少難病群の疫学、病態、診断、治療の相同性と相違性からみた包括的研究」(日比班)におけるアンケート調査では、有病者が約150~200例程度と推測されています。一方、小腸内視鏡検査の普及により症例が集積され、本症が常染色体潜性遺伝の形式をとる疾患であることが明らかとなりました。さらに、2010年より開始された遺伝子解析の研究成果により、本症の原因遺伝子として、プロスタグランジンの細胞内トランスポーターを規定するSLCO2A1が同定されています。すなわち、細胞内プロスタグランジン欠乏が本症の主たる病態であることが明らかとなり、小腸疾患の領域に大きなインパクトを与えています。

一方、SLCO2A1は太鼓ばち状指、長管骨の骨膜性肥厚、脳回転状頭皮を含む皮膚肥厚症を3主徴とする肥厚性皮膚骨膜症の原因遺伝子としても注目されています。腸管外病変として肥厚性皮膚骨膜症の症状を合併する非特性多発性小腸潰瘍症患者も存在します。

以上のことから、本症の英語疾患名がchronic enteropathy associated with SLCO2A1(CEAS)という新名称に変更され、これを契機に本難治性疾患の病態解明と治療法の探索が開始されたところです。そこで、「難治性小腸潰瘍の診断法確立と病態解明に基づいた治療法探索」研究班は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(難治性疾患実用化研究事業)の業務委託を受け、①消化器専門医における本症の認知度を向上させ、②他疾患との内視鏡所見の相違を明らかにし、③さらなる症例を集積する、ことを目的に研究を進めてきました。

CNSUの病態が解明されるに伴い、類縁疾患のcryptogenic multifocal ulcerous stenosing enteritisやNSAIDs起因性小腸潰瘍症などを含む“PG関連腸症”の概念も確立されつつあります。今後もCEASの研究を、厚生労働省科学研究費補助金 難治性腸管障害調査研究班のなかで継続していきたいと考えています。どうぞ宜しくお願いいたします。

研究責任者
岩手医科大学 内科学講座消化器内科消化管分野
松本 主之