松浦稔
仲瀬裕志、松浦稔、竹内健、長沼誠、松岡克善、藤井俊光、福井寿朗、高津典孝
松浦稔
仲瀬裕志、松浦稔、竹内健、長沼誠、松岡克善、藤井俊光、福井寿朗、高津典孝
本研究は、クローン病(Crohn’s disease:CD)の画像診断法として、欧米が主張するconventional ileocolonoscopy(ICS:経肛門的に直腸から回腸終末部までを内視鏡観察)とMR enterography (MRE)の組合せか、本邦で開発されたバルーン小腸内視鏡(balloon assisted enteroscopy: BAE、経肛門的に直腸から挿入し、回腸終末部を越えて、可及的により口側に挿入して内視鏡観察)とMREの組合せを比較検討し、欧米のstrategyの妥当性や至適なクローン病画像診断法、またクローン病新内視鏡スコアの開発に寄与することを目的とする。ICSは観察範囲が短いため検査時間が短く、被験者への侵襲もBAEよりは少ないとされている。一方BAEは観察範囲が長いため検査時間は長くなるが、ICSで観察できない口側の小腸まで内視鏡観察が可能である。厚生労働省難治性炎症性腸管障害班会議(班長:鈴木康夫 東邦大学医療センター佐倉病院IBDセンター センター長)のプロジェクト研究の一環として行われる多施設共同前向きランダム化比較試験で、内視鏡医学研究振興財団の多施設共同研究助成金による補助を受けて行われる。
CD小腸病変の画像診断は、本邦では小腸造影を中心に行われてきた。一方、欧米では近年、放射線被曝のリスクも考慮して、MREが主体となっており、各種のガイドラインやコンセンサスにも記載されている1)。我々のStudy Groupで行った前相feasibility studyによるpreliminaryな検討では、BAE経肛門的挿入例の約35%が狭窄や癒着により回腸下部までの挿入に留まり、MREでは前処置液の大腸流出による小腸拡張不良や撮影時の回腸位置移動によるBAEとの対比困難が課題として明らかになった。前相を受けて行う本研究は、BAEが開発された本邦から欧米が主張するICS+MREの妥当性を検証し、より適切なCD画像診断strategyの提供や、臨床現場で用い易い新内視鏡スコアの開発を目的としている。
・予測される医学上の貢献
本研究によって、欧米が主張するICSとMREによる検査法の妥当性や、ICSよりもBAEを施行すべき患者像が明らかにされ、今後の本法および世界の、CD小腸病変に対する画像診断方針の適正化に寄与する。
小腸造影や内視鏡、CT、MRI、超音波検査などにより小腸病変を有すると診断されたクローン病患者
MR enterography:研究参加施設の1.5テスラーないし3テスラーのMRI機器を用い、別記の統一した撮影プロトコールを用いて行う。小腸の拡張を得るために大腸内視鏡検査に用いる前処置薬を投与する。前処置薬はポリエチレングリコール液ないしクエン酸マグネシウム等張液を用い(モビプレップ®配合内用剤は不可)、800cc以上の前処置薬を1時間以内で内服するものとする。なお、内視鏡検査の前処置を兼ねてもよいものとする。
バルーン小腸内視鏡:下記の内視鏡機器のいずれかを用いて、経肛門的挿入で挿入時間1時間以内を目安に可及的に小腸深部まで挿入する。できるだけ回腸中部までの挿入を目標とし、回腸中部まで到達していれば、挿入時間1時間に到達していなくても深部挿入を終了しても良いこととする。また、活動性の高い潰瘍性病変など深部挿入にリスクを伴う所見を認めた場合は、内視鏡医の判断で以深の内視鏡挿入を中止して良いこととする。 内視鏡挿入は全例CO2送気で行い、挿入時から動画撮影も行う。検査前に大腸内視鏡検査に準じた前処置を行い、適宜、患者苦痛を軽減するため前投薬を併用する。
ダブルバルーン小腸内視鏡: EN-580T、EN-450T5。富士フイルム社製 ※EN-450P5は使用不可とする。 シングルバルーン小腸内視鏡:SIF-Q260。オリンパス社製
conventional ileocolonoscopy:回腸終末部までの観察を目指し、経肛門的に挿入する。内視鏡が通過困難な狭窄や、穿孔のリスクがある病変を認めた際には、日常臨床と同様に内視鏡医が適切に判断する。なお、オリンパス社製PCF-PQ260(I/L)の使用は不可とする。
なお直腸肛門部から回腸終末部までの狭窄に対して内視鏡的バルーン拡張術を施行する症例もエントリー可とするが、検査時間のデータにおいては、内視鏡的バルーン術に要した時間を除いて用いることとする。また、バルーン小腸内視鏡ではガストログラフィン(バリウムは不可)を用いての選択造影は可とし、その所見もスコア化に用いることとする。(conventional ileocolonoscopyではガストログラフィンの選択造影は不可)
MR enterography:使用するMRI機器や前処置薬は本邦で保険承認されたものであり、造影MRIや前処置薬の禁忌を順守して検査を行えば、安全性には問題がない。
バルーン小腸内視鏡:使用する内視鏡機器、前処置薬、前投薬の薬剤は本邦で保険承認されたものであり、検査中に血圧や脈拍、酸素飽和度をモニタリングしつつ検査するため、安全性は通常の保険診療で行われる検査と同等である。
MR enterography、バルーン内視鏡とも国内外で広く使用されている。バルーン小腸内視鏡:本邦で開発され、国内に広く普及している
検査法による分類:多施設共同前向き無作為化非盲検比較試験
試験内容による分類:第III相臨床試験
各施設で倫理委員会にて承認を得た後、患者に十分な説明と同意を得て、行う。
検査で得た、MRI画像、内視鏡画像(動画を含む)は、匿名化され、必要に応じて所見の中央判定にも用いられる。なお、中央判定は個人情報を消去した画像データを、各プロトコール委員が閲覧し、所見シートに記載する形で施行される。
同意を得た患者は、MREとBAE、両方の検査施行前に、メビックス株式会社のWEBランダム化システムにて、CRP (0.3mg/dl未満、0.3mg/dl以上)を割付け因子として、最小化法による動的割付けにより、ICS+MRE群とBAE+MRE群に無作為に割り付けされる。以降は割付時にデータセンターから付与される被験者識別コードで症例を管理する。被検者には、割り付け結果に応じた検査が施行される。
前処置薬や前投薬は、年齢、基礎疾患、排便状況などを考慮し、適宜、適切に投与する。
前処置薬投与によるイレウス、内視鏡検査による消化管穿孔などが生じた場合には検査を中止し、適切な対応を行う。
MR enterographyとバルーン小腸内視鏡/conventional ileocolonoscopyの間隔は1週間以内とし、同日でも可とする。
得られたMRE画像は下記のクローン病のMRE所見(Magnetic Resonance Index of Activity:MaRIA)スコア、東京医科歯科大学スコアを用いてスコア化される。
MREとBAEの対比評価部位は、回腸終末部、回腸下部~中部、回腸中部~上部、空腸の4部位とする。大腸はCD内視鏡スコア(Simple Endoscopic Score for Crohn Disease:SES-CDと新内視鏡スコア)のみ集積する。新内視鏡スコアはSES-CDと対比するため、回腸終末部、盲腸から上行結腸、横行結腸、下行結腸からS状結腸、直腸の5部位でスコア化し、最も病勢が進んでいる部位を明記する。スコア化にあたっては、選択造影の情報を付加しない場合と付加した場合の両方のスコア化したデータを集積する。
MREおよびBAE所見は専用アトラス(MRE、BAE両方)に基づいて主治医がスコア化したデータを解析に用いるが、それを補完する形で内視鏡動画等も含めた中央判定も行われる場合がある。
その他、本研究では以下の項目を調査表(CRF)にて調査する。
ランダム化割付け結果、内視鏡検査施行日、MRE検査施行日、年齢、性別、発症年、罹病期間、病型、肛門病変、腹部手術歴と術式、Montreal分類、合併症、既往歴、治療内容(5-アミノサリチル酸、成分栄養療法、ステロイド、血球成分吸着除去療法、6メルカプトプリン、アザチオプリン、インフリキシマブ、アダリムマブ、ウステキヌマブ)、CDの活動性指数(Harvey-Bradshaw Index: HBI)、血液検査データ(CRP、アルブミン、ヘモグロビン、白血球数、血小板数、血沈1時間値)、糞便検体の採取日と提出日、便カルプロテクチン値測定結果、便ヘモグロビン値、小腸4評価部位と大腸3部位(右側結腸、横行結腸、左側結腸)の腸管拡張の程度、前処置薬名、前処置薬内服量、前処置薬内服開始からMRE撮影開始までの時間、使用MRE機器名、MRE時鎮痙剤使用の有無と薬剤名、使用内視鏡機器名、前投薬鎮静鎮痙薬剤名、CO2送気の有無、内視鏡到達部位、到達範囲内狭窄の有無、内視鏡動画撮影の有無、選択造影施行の有無、内視鏡的バルーン拡張術施行の有無、有害事象のデータも集積される。
便中カルプロテクチン(サーモフィッシャーダイアグノスティックス株式会社)は、内視鏡前処置薬で出た便の検体は不可とし、内視鏡検査前3日以内に出た便を原則用いるものとする。
中間解析で(主要)評価項目で有意差を認めれば、プロトコール委員の協議により、症例登録を終了する可能性がある。
また、以下のいずれかに該当した場合には研究責任者等は当該被験者の研究を中止する。
研究責任者等は研究を中止する旨を当該被験者に速やかに説明し、中止時の調査を行うとともに中止日及び中止理由を記録する。被験者が来院しなくなった場合は電話等で可能な限り追跡調査し、有害事象の有無等を調査する。
なお本研究自体が中止となった場合は、参加施設の病院長、倫理委員会に、その旨を報告する。
原疾患の治療は、患者の病状に併せて、主治医が適切に治療を行う。副作用(副反応)が生じた場合は、主治医が適切に対処する。
原疾患の治療は、患者の病状、得られた検査結果に併せて、主治医が適切に治療を行う。
主要評価項目:MRE+ICS群とMRE+BAE群の回腸終末部を含む小腸活動性粘膜病変有所見率
なお活動性粘膜病変は、MREにおいては潰瘍、内視鏡検査においては潰瘍、びらんと定義する。
副次評価項目
分割表分析:Chi-square test、Fisher’s exact test
対応のない2群の比較:対応のないt検定、Mann-Whitney U test
対応のある2群の比較:対応のあるt検定、Wilcoxon sign rank test
など
なお、本研究の結果を公表する際には、新内視鏡スコアの配点結果に基づいた解析結果は、非公表、ないし後日の追加検討の結果により配点を変更した解析結果を公表する可能性がある。
下記の算定により132例(各群66例)とする。なお、中間解析を実施し、症例数の増加が必要と判断された場合は、研究参加各施設の倫理委員会承認を得たうえで、必要症例数の追加を行う。
中間解析は症例集積66例の時点で下記のプロトコール委員の協議により行う。(主要)評価項目で有意差を認めれば、症例登録を終了する可能性がある。
本研究に先立って行われた前相のProgress Study (feasibility study)の結果から、CRP0.3未満の症例における粘膜活動性病変有所見率は、MREによる小腸病変が16.7%、ICSで内視鏡観察不可部位のBAEによる小腸病変が40.0%であった。これからBAEの有所見率を40%、MREの有所見率を15%とし、αエラー5%、βエラー20%(検出力80%), 1:1の割り付けとして必要症例数を計算したところ、一群49人、二群合計98人となった。上記研究より回腸中部未到達35%とすると、98例×1.35≒132例が必要とされる。
内視鏡動画および写真:
(保管場所)兵庫医科大学 炎症性腸疾患内科 医局
(保管責任者)兵庫医科大学 炎症性腸疾患内科 特任准教授 渡辺憲治
本研究に関する資料は本研究の終了および結果の論文化終了まで各施設および兵庫医科大学にて保管される。
研究責任者:兵庫医科大学 腸管病態解析学/炎症性腸疾患内科 特任准教授 渡辺憲治
兵庫医科大学 炎症性腸疾患学 内科部門 教授 中村志郎, 准教授 樋田信幸, 講師 宮嵜孝子, 助教 上小鶴孝二, 助教 横山陽子, 助教 河合幹夫, 特任助教(腸管病態解析学)佐藤寿行, 病院助手 小柴良司, 病院助手 藤本晃士, 病院助手 小島健太郎, 実験補助 長瀬和子(2019年7月26日現在)
モニタリング委員は、研究計画書に沿った症例登録、各検査が遂行されているか、登録割付例が66例に達した時点で確認する。本研究の科学的信頼性または被験者の安全性に影響を与える可能性がある重大な問題事項があった場合、モニターは、研究責任者及び必要に応じて研究代表者に連絡するとともに、是正策・予防策を講じる。